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札幌地方裁判所 昭和49年(タ)36号 判決

国籍 朝鮮

国籍の属する国における住所 朝鮮江原道揚口面上里二七二番地

住所 北海道沙流郡平取町振内町D団地二ノ八

原告

佐々木美代子こと

水原美代子

西歴一九二六年一〇月八日生

右訴訟代理人

梅原成昭

国籍 朝鮮

国籍の属する国における住所 朝鮮北原道揚口面上里二七二番地一

住居所 不明

最後の住所 北海道様似郡様似町字幌満

被告

白明根こと

水原明根

西歴一九二三年三月二九日生

主文

一、原告と被告とは離婚する。

二、訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一、原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求原因として、

一、原告は大正一五年一〇月八日兵庫県津名郡岩屋町において、日本国民たる父佐々木豊佐久、母西岡みつとの間に生まれた女子であるが、昭和二三年四月二二日夕張市において朝鮮人たる被告と婚姻した。

二、原・被告は昭和二七年四月二八日平和条約の発効により日本の国籍を喪失し、朝鮮国籍を取得した。

三、原・被告は北海道様似郡様似町字幌満において同居していたが、昭和二九年六月頃事実上離婚別居した。

又被告は昭和二九年六月頃以降その住居所ならびに生死が不明である。

四、よつて原告は被告との離婚を求めるため本訴に及んだ、と述べ、立証として、甲第一、二号証を提出し、原告本人尋問の結果を援用した。

第二、被告は公示送達による適式な呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

理由

一〈証拠〉によれば、原告は大正一五年一〇月八日兵庫県津名郡岩屋町において日本国民たる父佐々木豊佐久、母西岡みつの間に生まれた女子であり、本籍を青森県南津軽郡石川町大字森山字村元一一番の一号地に有していたものであること、被告は西歴一九二三年三月二九日朝鮮において出生した朝鮮人であつて、江原道揚口面上里二七二番地一筆頭者水原鳳の戸籍に入つていたものであるが、太平洋戦争終戦以前に日本内地に渡来し、夕張市に居住していたものであること、原告は昭和二〇年頃夕張市において被告と事実上の婚姻をし、引続き夕張市において同居していたうえ昭和二三年四月二二日夕張市長に対し右婚姻届出をし、原告は右戸籍から除籍されたこと、原告は昭和二五年六月頃被告と共に様似町字幌満に転居したが、昭和二九年六月頃にいたり被告が怠惰で稼働しようとせず、従つて原告の生活をかえりみようとしないことから事実上の離婚をし、原告は被告と別居したこと、被告は以来その所在および生死が不明であることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二朝鮮は日本国との平和条約の発効の日から日本国の領土から分離することとなるので、これに伴い朝鮮人は内地に居住している者を含めてすべて日本の国籍を喪失したものと解すべく、してみると被告は右契約の発効の日から日本の国籍を喪失したものというべきである。

又もと内地人であつた者でも右条約の発効以前に朝鮮人との婚姻により内地の戸籍から除籍せらるべき事由の生じたものは朝鮮人であつて、右条約発効とともに日本の国籍を喪失したものと解すべく、してみると原告も右条約の発効の日から日本の国籍を喪失したものというべきである。

そして外国人間の離婚訴訟にあつては、被告住所が不明であるが、被告が我国に最後の住所を有したものであるときは、日本の裁判所は右訴訟につき国際的裁判管轄権を有しかつその普通裁判籍は右我国における最後の住所によつて定まるものと解すべく、しからば被告の我国における最後の住所地は様似郡様似町であるから本件は当裁判所の管轄に専属するものということができる。

ところで被告の本国法たる朝鮮民主主義人民共和国の北朝鮮の男女平等権に関する法令(西歴一九四六年七月三〇日公布施行)第五条および同施行細則第一一条は、結婚生活において夫婦関係の持続が困難でそれ以上続けることのできない条件が生じたときは離婚訴訟を提起することができる旨定めているところであり、夫が怠惰で稼働しようとせずかつ妻の生活をかえりみようとしない事情がありそのため婚姻関係が破綻したときは離婚原因となるものと解するのが相当であるから、被告との離婚を求める原告の請求は理由がある。

そして前記認定事実は民法第七七〇条第二号、第五号に該当するものということができる。

三よつて原告の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。 (磯部喬)

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